イントロダクション

ゆったりとした時間が流れる石垣島の
魅力をめいっぱい詰め込んだ、
やさしくて あったかい
映画が届いた

 ナビィおばぁの愛らしさが日本全国を虜にした「ナビィの恋」、天真爛漫な小学生美恵子の冒険が観る者に元気をくれた「ホテル・ハイビスカス」。沖縄の自然とそこに生きる人々を愛情いっぱいに描き、大ヒットを記録した2作品の監督・中江裕司の待望の最新作が、前作から4年の時を経て、遂に完成した。

 今度の舞台は、沖縄本島より南に位置する石垣島。ここ数年来の沖縄ブームのためにあちこちで観光化が進んでいる中で、この地には今もゆったりとした独特な“島時間”が流れている。島の人々は情に厚く、初めて訪れる観光客にも分け隔てなくまるで家族のようにあったかく接してくれるという。1度石垣島を訪れた人はほとんどがリピーターになり、次からは自然よりも人に逢いに行くとも言われている。

 そんな石垣島の魅力をめいっぱい詰め込んだのが、「恋しくて」である。いつも何かに追われるように分刻みで仕事や遊びをこなし、魂までも刻みながら今を生き急ぐ私たち現代人の肩をたたき、“ちょっとうちで休んでいったら”と、やさしく声をかけてくれるあったかい映画なのだ。

沖縄を愛してやまない
中江裕司監督の最新作は
「ナビィの恋」「ホテル・ハイビスカス」に続く
楽園ムービー第3弾!

 石垣島の太陽は、今日も眩しかった。高校生になった加那子は、祖母の家に引っ越したきり逢わなくなった幼なじみの栄順と再会する。全てひらめきで生きているような加那子の兄セイリョウの「バンドやるどー」の一声で、栄順が歌、マコトがギター、セイリョウがドラムをやることになる。加那子のパートは恥ずかしがり屋の栄順を歌わせること。バーでプロとして歌う母親とピアニストの父親を持つ加那子も音楽が大好きだが、4歳の時に父がいなくなって以来、歌えなくなってしまったのだ。そんな加那子を気づかう栄順。やがて2人は恋におち、一緒にいるだけで楽しい時間が過ぎていく。キーボードに栄順の同級生の浩が加わり、栄順たちは東京大会の出場権をかけたバンド大会を自ら主催し、出場する。練習の甲斐あって見事優勝するのだが、その夜セイリョウに思わぬ運命が降りかかる。皆の東京行きの夢は? そして栄順と加那子の不器用な恋の行方は? 人を恋しく想う気持ちを知ってひとつ大人になった加那子は、ある決意を秘めていた……。

 加那子、栄順、マコト、浩の4人を演じるのは、3500人のオーディションで選ばれた沖縄県在住の現役の高校生。演技はもちろん初めての体験だ。その結果、彼ら自身のリアルな成長物語と映画のストーリーが重なり、計算されたプロの演技では生み出せない真実の命の輝きが、フィルムに焼き付けられた。初めて人を恋しく想う気持ちを知った加那子と栄順が、1人で生きていく強さや本当の優しさを学んでいく姿には、胸を揺さぶられずにはいられない。

 その他、加那子の祖母には中江監督作品には欠かせない沖縄の“アイドル”平良とみ、母には日本屈指のジャズヴォーカリスト、与世山澄子、兄セイリョウには「半落ち」にも出演した注目の新進俳優、石田法嗣が扮している。

父の不在、母の歌、兄の願い、
祖母のやさしさ──
そして初めての恋が教えてくれた。
深い闇があるから、太陽は眩しく輝く

 石垣島は “音楽の神様に祝福された島”だと言われている。石垣島を撮るということは、“うた”を映画にするということ。人々は遠い昔から続く神事や祭りを大切にし、代々変わることなく受け継がれた伝統の唄を披露する。また、大人たちは夜ごと民謡酒場で朝が来るまで島唄を熱唱し、子どもたちは元気いっぱいに流行の歌謡曲を口ずさむ。那覇からアメリカのジャズやロックがダイレクトに入ってきた歴史もある。石垣島の人々にとって、うたは自分たちのあふれる想いを表現し、伝える手段なのだ。年代もジャンルも飛び越えたうたの数々に、沖縄らしいごった煮の楽しさを感じながら、是非皆で口ずさんでほしい。

 加那子の父親が作ったという設定で、栄順たちのバンド“ビギニング”が東京大会で歌う、映画のタイトルにもなった「恋しくて」は、石垣島出身のミュージシャン、BEGINの大ヒット曲。本作は中江監督が、BEGINのエッセイ「さとうきび畑の風に乗って」にインスパイアされて作った映画だが、ストーリーは監督のオリジナルで、実際のBEGINの青春物語ではない。しかし、映画の“スピリット”に自分たちと同じ熱い想いを感じとったBEGINのメンバーが、「恋しくて」を歌うシーンの歌唱指導を買って出ると共に、エンディング曲「ミーファイユー」も書き下ろした。家族や友達、恋人など愛する人たちへの感謝の想い(=ミーファイユー)を込めた曲で、またひとつ心に響く名曲が誕生した。